

光を嫌いながら、光を見つめる -Luciera
場所は、帝都ノクスの最深部、ルシエラの私室。
壁面に埋め込まれた星図は、ただの飾り。意味を失った記号。
それでも、彼女は今日もその光を見上げていた。
「……また、見ているのか。意味もないものを。」
壁の端末に映る、作戦報告。ステラがまた“加護”を得たという報。
「星の加護? 滑稽だな。選ばれし者……。選ばれなかった者の痛みなど、あの子にはわからない。」
記録された戦闘映像の中、ステラがまばゆい光を放ち、周囲を照らしていた。
まるで、そこにいるだけで人々の心を温めてしまうような、光だった。
「なぜ、私は……ああなれなかった?」
つぶやきは、誰にも聞こえない。彼女の声は、冷たい音をしていた。
かつて星紋が浮かんでいた胸元を、ルシエラはそっと撫でる。
焼き捨てたはずの紋の痕。それでも、そこに“幻肢”のように疼く痛みがあった。
「私は選ばれなかった。だからこそ、私は選ばれる世界を壊す。」
「皆が平等に、生きられる世界を……星なんて、“誰かの希望”でしかない。」
彼女の目が映し出すのは、完璧に計算された未来。
星の曖昧さではなく、機械によって制御された理想社会。
「それでも、お前は笑うのか。あの光で、誰かを導けると……?」
報告書を閉じる。再び夜空のような部屋の暗闇へ。
だが彼女の胸には、ずっと拭えない問いがあった。
「……私が、あの時、星を信じていたら……」
彼女は、もう一度空を見上げる。
機械の天井に貼り付けた偽物の星。
だがその中で、たったひとつだけ、本物の“星のかけら”が埋め込まれていた。誰にも見せない小さな輝き。
それは、捨てたはずの「何か」を、彼女の心に残していた——

選ばれなかった光 -Luciera
――かつて、星がまだ人々に信じられていた時代。
ルシエラは、小さな辺境の村に住む少女だった。
夜ごと空を見上げ、「いつか私も、星に選ばれる」と夢を語っていた。村の広場では、星紋の儀式が行われる。
選ばれし者には、美しい“星紋(ステラマーク)”が浮かび、その加護が与えられる。その日は、ルシエラの年の順番だった。
「きっと、私は“光の星座”の力を継ぐのよ!」
希望に満ちた笑顔。母も、弟も、隣村の少年たちも、彼女を応援していた。
――だが、結果は。
「……紋は、現れなかった」
巫女の声が響いた瞬間、広場に走る静寂。
空には満天の星が輝いていたはずなのに、ルシエラだけが、“選ばれなかった”。
「なんで……? お願い、私、星をずっと……信じてたのに……」
人々の目が冷たくなる。
「可哀想にね」
「努力が足りなかったんじゃない?」
「やっぱり才能ってあるのね」
それは彼女にとって、世界そのものがひっくり返る瞬間だった。
それからというもの、村の空気は変わった。
無紋者のルシエラは、徐々に疎まれ、蔑まれ、見えない壁に囲まれていった。
そして数年後――
帝国の“機械技術者”が村に現れた。
「星の加護? 笑わせるな。運命なんて、作り替えられる。」
その言葉に、ルシエラは救いを見た。
「私を……“選ばせて”。運命なんて、信じない。もう、裏切られたくないから。」
――――――彼女は、村を焼いた。
過去の自分を、星を信じていた自分を、焼き捨てるように。
焼け落ちた神殿の前で、灰の中にまだ残っていた“星の祭壇”を見つめながら、
「私の星は、ここで死んだ。ならば私は、"新しい神"を信じる。」
それが、ルシエラが「星の加護」を否定し、
「機械の神」に身を捧げる決意をした瞬間だった。